蒼い栞

過ぎ去ったすべてと僕の愛する人生に捧ぐ

詩(25〜30)

救世主

夏の夜も 冬の朝も 救世主は夢をみない 彼はただ あるべき姿を知る

残響がこの身を砕いて 後悔が記憶を染めて 真実が存在を忘却する ならば 果たして 残るものは この詩か骨か

加速と瓦解

加速していく。 思考が、自転が。 瓦解していく。 記憶が、……が。 何一つ、手に入らなくとも。

月へと跳ぶ

しなやかに ゆるやかに たおやかに かろやかに 月へと跳ぶ

ひとり

いつか いつか いつか わかるはず 蛍光灯のまぶしさと バスタブのまぶかさと 郵便受けのさびしさと

左の道

すべてを忘れず 進むと決めた すべてを許して 進むと決めた

右の道

すべてを忘れて 進むと決めた すべてを信じて 進むと決めた

呼吸法

生ぬるい対流のすき間から 眼を閉じて感じる一つの風 僕はそれを鼻の奥から吸い込む 深く 深く 肺胞の一つ一つの膨らみを感じながら 全身を透き通る液体が駆け巡るのを知る 空気の流れは止まり 満ち満ちた安堵に似た感情が湧く しばらくして 自身の一部を内…

夜に生きる

いつからだろう 夜の匂いが好きになったのは 排気ガスでけぶった月も 闇に溶けていく人の行方も 淀んだ風を切り裂くビームも 仲間と語り合った手探りな日々も ゆったりとした時の流れを 愛しく想う

もう一つのメルヘン

太陽と月の狭間 透明な夕焼けのぬくもりと 凜とした金星のきらめき これが見たかったのさ 昼と夜の狭間 そんなメルヘン

変わる

当たり前が当たり前でなくなったとき それは大切に変わる それは静かに大きな力に変わる

大言壮語

我々は思い知る 引き裂かれる想いを 投げ打ってきた時間を 揺さ振られるなら本望 真実など とうに無い

一つの秋

恋しくもなる 優しくもなる それも 秋 みえないものを 一つだけ 信じていこうと 胸に決めた

ファビアンへの追憶

名前もない日々でさえ 失くすことだけ考えた 夜間飛行の彼方まで 伸ばした手の彼方まで パタゴニア機の無線は呼ぶ つたない希望も添えてなお 失くすことだけ考えた その心は遠雷に似ている

星空の下で 遥か彼方の激動を想う ベッドの中で あの娘の幸せな未来を想う 果てしない流れから切り取られた瞬間に 確かに自分はここに在る 悠久のほとりからは一瞬の光 きっと宇宙より広大な心をみつける 切なくも愛おしい心をみつめる

手紙

大地を踏みしめ 海を聴き 風をかいで 夢を見て 君を想う

ある美しさ

最果てというものが 本当にあるのなら それはどんなに 美しいものだろう 最期というものが 本当にあるのなら それはどんなに 美しいものだろう

「さよなら」のあとで

「さよなら」のあとで 泣いたあの日も大切だけど 一度は立ち止まったこの場所から 人はいつでも歩き出せる 顔を上げて 前を見て 深呼吸をしよう どこに行こうと 出発点は僕のあしもと