蒼い栞

過ぎ去ったすべてと僕の愛する人生に捧ぐ

詩(30〜35)

青い窓

雨の色が透明になるこの街で 小さな家が建っていた 涼しげな白い壁と 素朴な木のテーブル 青い窓はいつも開いている 中にいるのは優しげな少女 これからテーブルクロスを敷いて 花瓶を飾るのだろう 海を渡る風が通る カーテンが柔らかく揺れている 余計なも…

芽吹き

重い空に滲む風景 通りを行く人の動きは鈍い どこに向かっているというのか 先は見えない こんな閉塞感はなぜだろうか 今ここにいること それを思い知らせてくれているのだろう? 今まで生かされてきたのは 自分の意志ですべてを決めるためじゃない 根拠はな…

こころ

いま大波が打ち寄せる こころの岸辺 思い知るのは 外からは見えないから 通りを行き交う人の心のさざ波は 外からは見えないのだけれど 人はそれぞれこころに起伏を持って往来している それでも 近くの人だけでも こころのさざ波を思いやれたらいい 神経質に…

水槽

透き通る鼓動 ただまっすぐな想いに打たれて 打ち寄せる切なさを感じていた こんなに穏やかな時があったなんで 春の夜の底を歩く 一つ一つを愛せるかな 忘れた想いを混ぜたような 優しい風が胸を溶かす 春の夜の底を歩く 見上げた月は暖かかった 重ねた想い…

病院

病院の白さは なぜあんなに際立つのか 揺るがないものと 定まらないものと 希望と絶望と 渦まく箱の中 コントラストの境界線を僕は知らない

甘いカスタードクリームを 気の抜けたジンジャーエールを 現実に迎合する大人を 一瞥するように旅に出よう 向かうは南西 僕の心は色のない……のように 夕暮れの地で君を射つ

いつも心に詩集を

あふれる喜びに充ちたときにも 先の見えない苦悩のなかでも いつも心に一冊の詩集をもちたい 真鍮のアンモナイト 指先のプレアデス 偽物のシンフォニー 純白のミルクティー 荒野のガーベラ いつも心に一冊の詩集を いつか来る 決断の日のために どんなときで…

選ばなかった言葉

流れ星を君と探した そんな日々を ふいに思い出すからだろうか 四十億年の孤独の後で 僕は 四十億年前の光を見上げる あの日 君を前にして 選ばなかった言葉がある 今はただ この冷たさだけが ただ 愛しい

真理

それは今は知らなくてもいい 知る術すらないという 禅問答のような 美しい四色定理のような 完全なるエスペラントのような 昨夜みた夢のような そうして人々は還っていく 思いもしないことを思いしるために 精一杯生き抜いた人への褒美かもしれない 深宇宙の…

音のない幻想曲

秋の夜の幻想の中に触れてみる あの三日月はあたたかな記憶 それは熱量 それは奔流 それは歴史 それは研ぎすまされた空気の結晶か 同じような明日はいらない 擦り切れた言葉もいらない 眼を 本を 思考を すべてを閉じよう 静寂を一分の友としよう そうして …

花は生きている

花は生きている 散るまでだろうか 花は生きている 枯れ果てるまでだろうか 花は泣き濡れて 土にまみれ あるいは水底へと溺れる 堆積し あるいは沈殿し 養分となり あるいは燃料となる それでも 花は生きている すべての生命の中で 美しかったその色を 密やか…

可能性

素晴らしい詩人になったかもしれない サラリーマンもいる プロ野球選手になったかもしれない トラックの運転手もいる 歴史的な政治家になったかもしれない 大人になれなかった赤子もいる 世界を変えるかもしれない これからの君がいる 巡り合わせか時代のう…

降りしきる春のあとで

ある日 僕は想った ほほを撫でる風 花の匂い 澄み渡る空 白い太陽 他に何が要るだろうか 心は跳ねるように鼓動する 世界は瞬きで変わっていく 降りしきる春のあとで

ひとひらの群青

それは、数えきれない哀しみのあとの ひとつの夕月夜 ふたつの約束 みっつの交響詩 それは、美しい日だまりのあとの 風になびくページ 最後の深呼吸 ひとひらの群青 ああ、そうか いま僕は、世界の息の根を止めるのだ